2011年5月2日月曜日

最賃制に関するコメント(間奏曲)ー野川

安藤さんとツイッター上で交わしたちょっとした議論について、ハマちゃんこと濱口桂一郎先生がコメントを下さり、憲法論としては安藤さんが正しいとジャッジして下さったので、「?」と思ったところ、どうも私のツイッター上での言葉が足りなかったことを発見しました。そこで、今回は間奏曲としてこの点を簡単に述べておきます。

ツイッターでは、「条文を読むなら法律で決めるとだけあるので,最低賃金を設定しなければならないとか,それをゼロより大きくしないといけないとは読めない」との安藤さんのご指摘に対して 「憲法27条2項の趣旨は、同25条を受けて、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活をできる労働条件の水準を法律で直接に定める」ということなので、実質的に生活していける賃金の最低水準について定めた最低賃金法を撤廃する法令は違憲となります。」と書き、そのすぐ後に「もちろん、賃金の最低水準を確保したうえでその決定方式や手続きを合理化するために最低賃金法に代えてもっと適切な法令を制定する、ということはできます。」と付け加えたことがポイントだったのですが、この点をもう少し説明すべきでした。

つまり、そのあと安藤さんが「労働条件には安全衛生とか様々な要素があり,必要な内容については適切に定めることが求められているだけだとは解釈できませんか?」とご質問されたことについて、すぐ「確かにそうですが、たとえば最賃制度について、現行最賃法を撤廃し、今後最賃を法で定めることはしないとすることはできません」 というお応えをすべきところ、「まとめると、憲法27条2項は労働条件の最低基準は法で定めることとしているー労働条件と は賃金を中心として本来労働契約で合意されて決まる事項であるーそこで賃金をはじめとする労働条件については法で最低基準を明記しなければならないー最低 賃金法はその典型である、ということです。」とまとめたので、十分に意図が通じなかったのかもしれませんね。

あらためて憲法27条2項と最賃法の関係を記しておきますと、まず、憲法27条2項の趣旨である「労働条件の最低基準は法律で定める」ということを体現した具体的法規の一つが最賃法であることは異論のないところです。 これに対して、「最低賃金法は撤廃すべきだ」という意見があったとした場合、「それが、現行最賃法に代えてもっと適切な最賃制度を定めるべきということであるならば問題ないが、そもそも最賃制度を法で定めること自体を認めないというのであれば、そのような法令(「最賃制度を法では定めない」という法令)は違憲となる」ということです。

ただ、これもツイッターで少し議論しましたが、労働者の生活水準が全体として保障されるのであれば最賃にこだわることはないのではないか、という安藤さんのご指摘は、最賃制をもっと柔軟に運用すべきだという趣旨としては、私も否定していません。こうした構想を、現行憲法と整合性をもって実現しようとすれば、最賃制度の必要性を否定するのではなく、その具体的運用の在り方として、最賃の額は他の給付(ベーシック・インカムもその候補の一つかもしれません)とリンクさせて決定するという法改正は考えられると思います。

次回は、本筋に戻りたいと思います。