2011年3月25日金曜日

東北関東大震災と外部労働市場 (安藤)

前回の野川さんの投稿から3週間も空いてしまいましたが,そろそろ再開したいと思います。本当は3月11日に更新するつもりだったのですが,当日に東北関東大震災という大きな事件があったために遅くなってしまいました。

本日はこの震災に伴う労働問題について考えたいのですが,その前に前回の復習です。

私が投げかけた(1)大企業と中小企業とを分けて検討する必要がありませんか,という点と(2)仮に外部労働市場の整備を先に行うとしたら,どのようなプロセスが考えられますかという二点の質問に対して,野川さんから頂いた回答を私なりにまとめると以下のようになります。

まず先に中小企業に対して「守れる契約にする代わりに守らせる」ことを私が考えていたのに対して,野川さんは,雇用関係が契約であるということが理解されていないのが現状であり,契約の明確化を要請しても大企業では普及するかもしれないが中小企業では難しいと考えているようです。その上で,まずは大企業から順に浸透させることが現実的だという見解だと理解しました。

次に外部労働市場の整備をどのように実現するのかについては,野川さんは「新卒定期採用の相対化」と「横断的職業能力の指標を充実させること」により,少しずつ進んでいる外部労働市場の整備をさらに進めることができると考えています。加えて「解雇の金銭解決制度」の導入についても一定の理解を示していますね。

これまで私は,明文化された契約が結ばれるようにすることが先であり,また履行可能な契約の締結とその保護を重視すべきだと考えてきました。しかし3月11日に発生した東北関東大震災により,家と仕事の両方を同時に失った方が多数いらっしゃることを考えると,今こそ外部労働市場の整備が必要だと考えるようになりました。

その理由は以下の通りです。

まず,仕事を失った方にとって,今後取り得る選択肢は以下のように分類できます。

  1. 復興とともに,現地で再び同じ仕事に就くこと,
  2. 震災を機に住む土地を変えて,同じ仕事を続けること,
  3. 現地において別の仕事に就くこと,
  4. そして他の地域へ移住し,別の仕事に就くことです。

例えばこれまで漁業に従事してきた労働者が,現地で漁業を続けることもあるでしょうが,後継者がいなくて困っている他地域に転居して漁業に従事することもあるでしょう。また現地で建設業に就くことも考えられますし,家族や知り合いがいる別の土地で別の仕事を探すこともあり得ます。

今回のような大規模な災害に伴い多くの仕事が失われたことを考えると,仕事を変えざるを得ない人も多いと思われます。そして仕事を変える際には,新たな職場とのマッチングや技能習得が必要となるでしょう。

このように不可避的にキャリアの変更を必要とする方が多数存在することを考えると,外部労働市場が充実していることが求められます。その際には,これまでの就労経験に応じて,どのような職種への転身が上手くいくかなどの情報が適切に提供されること等も求められます。

これまで野川さんと私は主に整理解雇に注目して議論を進めてきましたが,このあたりで一度話を変えても良いのではないかと考えました。そこで前回までの外部労働市場についての話をさらに進めて,被災者の今後の働き方について考えてみたいと思うのですがいかがでしょうか。特に労働者のキャリア転換や移住などの可能性を考えて,外部労働市場の機能を整理し理解しておくことは有用かと思います。

被災地における,また被災者にとっての新たな雇用を考える際には,野川さんの言うところの「日本の企業社会にまだまだ根付いている身分社会的慣行」や,「閉鎖的な労働市場」の問題にも注目する必要があるでしょう。この問題について,もう少し考えてみるつもりです。

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