2011年2月25日金曜日

鶏が先か卵が先か (安藤)

これまでの議論を整理して頂き,ありがとうございました。私が最も大事だと考えているのは,まさに「今後労働者と企業との関係は総じてどうあれば当事者にとっても社会全体にとっても適切か」という問題です。

これまで検討してきた個別契約の明確化に対して,野川さんは「柔軟な対応の障壁となる」ため,現状では活用されないだろうと予想されていますね。そして「優先して取り組むべきは、転職が大きな打撃とならないような労働市場をどう構築するか、労働者の職業能力の普遍化をどう確立するか」とも述べられています。

しかし私は,契約の明確化と外部労働市場の整備とは「鶏と卵のどちらが先か」という議論のようにも思えるが,やはり明確化が先ではないかと考えています。

まず私が契約の明確化を導入しても問題ないだけでなく,実際に使われるだろうと考えている理由を以下に挙げます。

  1. 契約を明確化しても,これは柔軟な対応を妨げるものではありません。契約ベースにするということは,詳細な契約を結ぶことの強制ではないのです。「柔軟な対応」をしたければ明記する範囲を減らして,事後的な交渉と信義則に任せる領域を増やせば良いでしょう。例えば「場合によっては整理解雇が必要になるかもしれませんが,雇用はできる限り守ります。ただし仕事内容の変更や勤務地の変更などは受け入れてもらいます」という,これまでの正規雇用に相当する契約も当然締結可能です。
  2. 私は「使用者の判断によって労働条件や処遇や労働者の地位を変更して何とか解雇の可能性は低下させられる、という労使の思惑が普及している」のは実質的には大企業だけで,中小企業では普及していないと考えています。そして中小では解雇や転職が比較的頻繁に行われているのなら,契約の多様化と明確化により,これまでの保護が弱い無期契約とは異なり,守れる契約にする代わりに守らせることが可能になるのではないかとも考えています。

以上のことに加えて,新規に無期契約を結んだ場合には,これまでと同じく「これは定年までの長期雇用とみなす」が,さらに解雇権濫用法理と整理解雇法理を厳格に適用するとしてはどうでしょうか。これまで大企業と中小企業とでは裁判所が要求する実質的な労働者保護の水準が異なっていたようですが,今後は多様な選択肢を許す代わりに,長期雇用を結んだのなら守るべきという面を強調するのです。それにより,期間の定めのある中期雇用が,中小企業から順に実現していくように思われます。

私は,転職市場が充実してから契約を明確にするというのは現実的ではないと考えています。それは現在のような二極化した雇用形態を維持したままで,外部労働市場の整備を先に行うことが難しいと考えているからです。

よって私からは,(1)大企業と中小企業とを分けて検討する必要がありませんか,という点と(2)仮に外部労働市場の整備を先に行うとしたら,どのようなプロセスが考えられるのでしょうかという二点を野川さんにお尋ねしたいと思います。

本日はここまでにして,整理解雇の四要素に代わる裁判所の判断基準や労働契約が「身分契約」だと認識されているという論点については,別に議論しましょう。

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