2011年1月27日木曜日

整理解雇とは何か (安藤)

前回,私は「正社員は既得権者なのか?」というタイトルで投稿しました。野川さんは,その内容を「正社員は確かに既得権を有しているが、それは十分に合理的な理由のあることであって、それを奪うには原則として意を尽くした説明と合意形成が必要であり、それもかなわないときは一定の対価の支払いが保証されるべき」と要約し,その意味であるなら(いくつかの注意点はあるものの)異論はないというご意見でした。

それを読んで私はとても安心しました。私たちは互いの理解を深めることを目的としてこのBlogを開設しているので,仮に意見の相違があってもまったく問題はないのですが,とりあえず出だしは好調のようです(笑)

さて頂いた三つのコメントは,すべて理解できますし同意します。例えば一点目の「正社員」については,今後は言葉の使い方に注意する必要があるという意味でも,とても勉強になりました。ただし三点目については,より丁寧な切り分けと説明が経済学の視点から可能ですし,また必要であるとも感じています。しかし,まずは整理解雇の意味を理解しておくことが,話を先に進めるためにも必要でしょう。

前回の投稿において,野川さんの言葉を借りれば,私は「正社員は確かに既得権を有しているが・・・それを奪うには原則として意を尽くした説明と合意形成が必要」であるという主張をしましたね。しかし,それならば企業(正確には使用者側というべきです)が労働者を一方的に解雇する整理解雇とは,長期雇用の約束を破る行為であり,許されないものではないかとの疑問を持った読者もいたはずです。そこでこのエントリでは, まず,整理解雇とは何かという点を整理しておきましょう。もし以下の私の記述に誤解があれば,すぐに野川さんから訂正が入るはずです(笑)

解雇には,懲戒解雇,普通解雇,そして整理解雇があります。まず懲戒解雇とは,あらかじめ就業規則で定められた懲戒事由に該当する行為を労働者が行った場合に行われる解雇を意味します。

次に普通解雇とは,何らかの理由で労働者がこれまで通りに仕事を続けられない場合に行われる解雇を指すものです。例えば犯罪行為により当該労働者が刑務所に入ってしまった場合には仕事を続けられませんね。また何らかの理由で労働者がやる気をなくしてしまったときに,上司や周囲の人が真摯に当人に向き合って話し合ったとしても,そして負担の少ない仕事への配置転換などさまざまな手段を講じたとしても,やはり状況が改善されないとしたら,これも仕事を続けられない場合に当てはまるでしょう。

そして整理解雇とは,時代の変化や技術進歩,そして消費者の好みの変化等の理由で,これまでの仕事がなくなってしまった場合に行われる解雇です。例えば特定の事業分野からの撤退や工場の閉鎖により,これまで企業が雇っていた労働者が不要になってしまった場合などを想定すれば良いでしょう。

普通解雇と整理解雇の分かりやすい判別方法は,解雇が行われた後に後任が雇われるかどうかを見ることです。例えば,ある労働者が解雇された後に,その人が担当していた仕事が残っている場合には後任が雇われるでしょう。これが普通解雇です。一方で,仕事がなくなったことが理由で解雇されたのなら,後任は雇われませんね。

また懲戒解雇や普通解雇は労働者側に(も一定の)責任があるのに対して,整理解雇は労働者側には責任がない,言い換えれば労働者は悪くないのに解雇されることだと理解されるのが一般的です。

ただし,日本では企業別の労働組合が多く,このとき労働者も企業業績に対して一定程度の貢献と責任を負っているという考え方もあります。例えば労働者がボーナスという形で企業の利益の一部を受け取っている場合には,「経営状態の悪化は経営者の判断ミスであり,労働者は完全に無関係である」と考えて良いとは限りません。

今回のエントリで私が述べた「整理解雇」の理解に問題がなければ,続いて,整理解雇とは長期雇用契約という約束の一方的な破棄であるのに,なぜ一定の条件の下で許されるのかについて考えることにしましょう。

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